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murawaki の雑記

2017-08-27

節か否か

前回のネタから引き続き、Universal Dependencies の日本語版の問題。今回取り上げるのは、係り受けのラベル。amod (adjectival modifier)acl (clausal modifier of noun (adjectival clause)) の使い分け。修飾する単位が、前者は単語、後者は節 (clause)。同じ問題が副詞 (advmodadvcl) にもある。

問題の所在

英語の場合、

red meat

は red <-(amod)- meat、

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sites -(acl)-> offering とラベルをふる。前者は語の修飾で、後者は節の修飾。

日本語でも

赤い 目

は 赤い <-(amod)- 目 で良さそうな気がする。「とても 赤い 目」のように程度の副詞形容詞を修飾できるのも英語と同じ。

しかし、

目 が 赤い 人

時間 に 厳しい 人

いま とても 熱い 話題

になると節っぽいので acl が良さそう。そう考えると「赤い 目」も acl にしたほうが統一的ではないかとも思えてくる。

関連して、形容詞名詞的な英語と違い、日本語の場合は動詞的で、

赤かった 目

のように活用変化する。「-い」も、現在なのか非過去なのか、ともかく何らかの TAM を表してそうという点でも英語とは異なる。

ざっと調べた限りでは、暫定的な結論として、以下の案が良さそう。

  • 一律に acl をふる
  • 節と解釈するには微妙な例があることを説明し、今後の課題とする

類型論

Universal Dependencies は類型論と関係が深い。世界中の言語に対照可能な解析を与えようというのだから。そこに沼が広がっているのは明らかで、パンドラの箱をあけてしまった感がある。

そんなこんなで、まずは類型論の研究を探してみたが、あまり収穫はなかった。調査開始前になんとなく認知していたのは Bernard Comrie の「アジア式」関係節に関する研究。名詞修飾表現について、寺村の「内の関係」、「外の関係」の分析を発展させたような話。今回ざっと見た限りでは、用例が動詞ばかりだったし、そもそも節か否かに関する議論は見当たらなかった。*1

次が 2016 年の論文

Jan Rijkhoff. 2016. Crosslinguistic categories in morphosyntactic typology: Problems and prospects. Linguistic Typology. 20(2).

Rijkhoff は、Dryer などの古典的な語順の類型論の研究が、Adjective, Genitive, Relative Clause 等の概念を定義することなく使っていることを批判している。しかし、代わりに比較対象として持ち出したのは Qualifying Modifier のような functional category。結局 morphological unit (adjective, genitive, relative clause) の概念を明確化していない。

R. M. W. Dixon and Alexandra Y. Aikhenvald ed. 2004. Adjectives Classes.

この本は、そもそも類型論的に形容詞という概念が成り立つのかに焦点をあてている。Dixon の主張は成り立つというもの。ヨーロッパ的な名詞形容詞以外も、closed class の場合*2でも、積極的に形容詞認定していくという立場。*3

この議論においては、日本語は形容詞形容動詞という 2 種類の形容詞があるという点で面白いらしい。2 章 Anthony E. Backhouse の Inflected and Uninflected Adjectives in Japanese はそこにしか触れていない。9 章 Ho-min Sohn の The Adjective Class in Korean はもう少し広く現象を紹介している。Dixon からの流れで、朝鮮語にも形容詞はあるという立場。「目 が 赤い 人」と同じ構文の

[키가 큰] [사람]

を取り上げて relative clause だと言っているが、より基本的な「赤い 目」構文をどう解釈しているのか不明。

生成文法

生成文法方面ではけっこう研究されている気配があった。

Min-Joo Kim. 2002. Does Korean have adjectives?. MIT Working Papers in Linguistics. 43.

Kim (2002) は、朝鮮語形容詞は stative verb であるという立場。これは形容詞という概念をどう定義するかによる。ここで重要なのは次の主張。

apparent noun-modifying adjectives in Korean are predicates inside relative clauses.

ということで、relative clause だという立場。-n を relativizer だとみなし、

[ e1 yeppu]-n1 yeca

のように gap を導入して分析する。

Mark C. Baker. 2003. "Verbal Adjectives" as Adjectives without Phi-features. Proc. of the Fourth Tokyo Conference on Psycholinguistics.

類型論よりの生成文法をやっている Baker は日本語の「美しい女」構文を取り上げて、cannot enter into direct attributive modification in Japanese, but rather form relative-clause-like structures という。「い」がついているのが direct modification ではないという解釈。論文では、これを説明するために phi-features という agreement がらみの概念を導入し、日本語はこれを欠いているので direct modification ができないと説明する。

Menon (2013) は Malayalam を扱うが、従来研究として Baker (2003) に触れ、さらに Baker (2003) が取り上げていなかった「きれいな女」のような形容動詞も attributive modification を行えないことを指摘している。

Junko Shimoyama. 2014. The size of noun modifiers and degree quantifier movement. Journal of East Asian Linguistics. 23(3).

Japanese lacks direct adjectival modification という見方は Kuno 1973; Shibatani 1978; Whitman 1981; Dixon 1982; Miyagawa 1984; Makino and Tsutsui 1986; Urushibara 1993; Nishiyama 1999, 2005 で広く支持されているという。

しかし、Shimoyama (2014) は、direct modification である可能性が否定できないとする。そこで取り上げているのは微妙な話で、比較表現の解釈。

ジョンが一番高い山に登った。

における「一番高い山」が絶対的に一番高い山なのか、他人が登った山と比較して一番高い山なのか。

一番ジョンが高い山に登った。

だと後者の読みしかできない。この手の解釈はスコープの島制約と結びついており、finite relative clause だと制約が期待されるのに、実際には見られないという議論

Hiroko Yamakido. 2005. The Nature of Adjectival Inflection in Japanese. PhD Thesis.

この博論が従来研究の紹介をふくめて一番詳しそう。Yamakido (2005) も、3 章で、copular relative clause と解釈するには不都合な場合があることを指摘している。「ピーターが古い友だちだ」は Peter has been a friend for a long time の意味にしか解釈できない。Peter is old and Peter is a friend とは解釈できず、「ピーターが友達で、ピーターが古い」とは言い換えられない。attributive adjectives は intersective でない場合があるが、relative clause だとすると intersectivity が成り立つと期待される。次に時間に関する解釈を 3.6.2 で取り上げている。

4 章では急進的な主張を展開している。形容詞の -i, -ku、形容動詞の -na, -ni は case marker だと主張し、ペルシア語のエザーフェと比較している。真面目に読んで検討すべきかもしれないが、すぐに UD に採用するという話にはならないだろう。

雑感

まあこんな感じで、素人が付け焼き刃の調査でやっている。どこかから理論系の人と類型論の人を連れてきて投入したい。

*1Haspelmath の論文も 3.5. Relative clause で取り上げているのは動詞のみ。

*2アフリカのイボ語には形容詞が5個しかないとか。

*3:他の特徴との相関から日本語の歴史的変化を推測している部分 (p.35) は面白い。Stage One: Japanese lacked dependent marking. It probably also lacked head marking, showing syntactic function by the ordering of phrasal constituents within a clause. There was a single class of adjectives (the present inflected class), similar to verbs in their grammatical behavior.